シリア情勢緊迫で安田純平さん解放のための日本政府へのアピール

2019/01/15

安田純平さん(写真提供:月刊「創」)

ジャーナリストの安田純平さんが武装組織に拘束されていると見られるシリア北部のイドリブ県で、ロシアとトルコの合意に基づいて非武装地帯を設置する動きが進んでいます。アサド政権によるイドリブ総攻撃を食い止めるための措置です。10月15日が設置の期限であり、現地情勢は緊迫の度を増しています。停戦が破られれば、一気に大規模な戦闘に発展する危険性があり、安田さんの安全も脅かされることになります。

イドリブでは非武装地帯の設置や武装解除を拒否している過激派組織もあり、安田さんを拘束していると見られる過激派組織も、その一つです。現在、イドリブ県ではトルコによる武装勢力への働きかけが行われていると報じられています。私たちはこれまでも度々、安田さんの解放のために日本政府に対応を求めてきましたが、シリア情勢が重大な局面を迎えたいま、日本政府がトルコ政府と協力、連携しつつ、安田さんの解放に向けて最大限の努力をするよう改めて要請します。

今年7月末、安田さんと見られる男性がオレンジ色の囚人服を着せられ、銃を突き付けられ、「とてもひどい環境にいます。いますぐ助けてください」と訴える映像がインターネット動画サイトに掲示されました。菅官房長官は男性について安田さん本人であると認定しました。

安田さんの拘束期間は既に3年を超え、海外での邦人の人質拘束事件としては最長となりました。戦闘が続く紛争地で、過激派による長期間の拘束によって、安田さんの健康状態の悪化も懸念されます。

シリア内戦は発生から7年半を過ぎ、これまでに30万人から50万人とも言われる死者、500万人を超える難民を出し、第2次世界大戦後、最悪の紛争の一つとなっています。「イスラム国(IS)」など過激派組織による世界へのテロの拡散の脅威もあります。内戦に対する世界的な関心の高まりを受けて、各国の報道機関やジャーナリストが現地に入り、戦争報道を担ってきました。その一方でこれまでに120人以上のジャーナリストがシリアで命を落としています。日本人ジャーナリストも2012年8月に山本美香さん、2015年1月に後藤健二さんという紛争地での豊富な取材経験を持つ二人が犠牲になりました。

ジャーナリストは危険地の事故を避けるために職務として最大限の安全対策をとりますが、情勢の急変などで危険を避けられない場合もあります。しかし、ジャーナリストが紛争地から遠ざかれば、紛争の実態は見えなくなってしまいます。シリアでの「イスラム国(IS)」による米国人ジャーナリストの殺害をきっかけに、「人質の安全最優先」を掲げる大統領令を出した米国を初め、各国政府が危険に陥ったジャーナリストを救出するために最大限の対応をしています。

イドリブでは安田さんの後、スペイン人やドイツ人のフリーランスのジャーナリスト計4人が武装組織に拘束されましたが、それぞれの政府が積極的に動き、トルコ政府の協力を得て、10カ月ほどで解放されました。日本政府はインターネットを通じて安田さんの訴えが掲示されるたびに、「邦人の安全確保は政府の最も重要な責務だ」と繰り返してきました。いまこそ、その責任が問われています。

イドリブ情勢が緊迫の度を強めているいま、日本政府に対して、安田さん救出のために積極的に動き、一日も早い解放を実現するよう強く要請します。

2018年10月12日   「危険地報道を考えるジャーナリストの会」
世話人 土井敏邦/川上泰徳/五十嵐浩司/高橋弘司/石丸次郎/綿井健陽

-安田純平さん拘束関連