危険地報道報告会リポート [1]

(2)シリアの市民ジャーナリスト

◇報告者 川上泰徳

シリアではジャーナリスト安田純平さんがシリア北部のイドリブで反体制武装勢力に拘束された2015年6月ごろから、外国ジャーナリストの拘束などが続き、欧米のメディアも反体制支配地域に入ることはできなくなった。その後、シリアの反体制地域の状況を世界に伝えているのは、シリア人の市民ジャーナリストである。

川上は「先日、シリアのイドリブで政権が使用したとみられる化学兵器によって子供など多くの市民が死傷した事件の映像が、世界に報じられたのも、現地の市民ジャーナリストが発信したものです」と語った。

報告では、市民ジャーナリストを代表するハディ・アブドラに焦点をあて、アブドラを取り上げたアラブ世界の衛星テレビ、アルジャジーラの特集や、アブドラ自身が撮影し、動画サイトYOUTUBEにあるアブドラの個人サイトで公開している映像を約10分間の映像として編集して紹介した。

アブドラはシリア内戦が始まった後、シリア中部のホムスで、政権軍によるデモ隊の武力制圧のニュースをシリア国外に知らせることからジャーナリスト活動を始めた。ホムスが陥落した後は、アレッポ東部の反体制支配地域に移り、現在はアレッポの西側にあるイドリブに移っている。

2016年6月にアレッポ東部で政権軍が樽爆弾を投下した現場の映像では、アブドラが現場に到着した時には、現場では火の手があがり、もうもうと煙と粉塵が立ち込めていた。現場に行くと、反体制地域の民間防衛隊(通称:ホワイトヘルメット)の隊員が、「ハディ、こっちだ」とアブドラを現場に誘導する。樽爆弾の現場は、一つの爆弾で死者が出て、ホワイトヘルメットの救助が始まったところで、あらたな空爆があり、救助作業中の隊員が命を落とすこともある。アブドラは現場でマイクを持って「ラマダン月の3日、アレッポのシャアール地区のアルバヤン病院に樽爆弾が投下され、多くの死傷者が出ています。新たな虐殺です」とリポートを始めた。

アブドラは2日後には別の現場でリポートの映像では、飛んできた破片を頭に受け、けがをし、同行していたカメラマンのハレド・エッサとともに血だらけになった様子が映っている。さらに10日後には、アブドラとエッサは取材を終えてアパート入ったところで、仕掛け爆弾が爆発し、二人は瓦礫の下敷きになった。二人が瓦礫の下から救出される場面も、別の市民ジャーナリストが撮影し、映像として残っている。

2人はトルコの病院に運ばれ、アブドラは8度の手術を経て、命は救われたが、エッサは死んでしまった。爆発事件から2か月後、アブドラは車いす姿でジャーナリストとしての活動を始めた。アルジャジーラの映像では「何をするにもエッサのことを思い出して、涙がでてしまう」と語るアブドラのインタビューが出ている。

アブドラは2016年11月、国際的なジャーナリズム組織「国境なき記者団」が選ぶ「ジャーナリスト賞」を受賞した。受賞理由には「シリア内戦でほかのジャーナリストたちも行きたがらない危険を冒して多くの危険な場所から報道するフリーランスのリポーターで、その報道によって市民社会の発言者が外の世界に向かって(シリア情勢について)発言することができるようになった。アブドラは度々死の危険に見舞われ、2016年1月にはヌスラ戦線に一時誘拐されたこともあった。同6月にはアパートの外で爆発物が爆発し、彼と仕事をしているハレド・エッサが死に、アブドラ自身も重傷を負った」とあった。

アブドラが仕事に復帰した時、アレッポ東部は昨年7月から始まった政権軍の包囲攻撃によって戻ることはできず、反体制支配地域のイドリブに拠点を移した。昨年11月に政権軍がアレッポ東部に侵攻を開始し、12月上旬に陥落し、数万人の市民がアレッポからイドリブに退避した。退避民の中にはアレッポ東部から母親とともにツイッターで情報を発信していた7歳のバナ・アベドさんもいた。アブドラはイドリブについたバスに乗ったバナさんにインタビューし、その映像が世界に流れた。さらに4月4日にイドリブであった化学兵器使用事件では、アブドラも現場に駆け付け、化学兵器によって生後9か月の双子を亡くした若い父親にインタビューした。

川上は市民ジャーナリストの役割についてこう語った。

「欧米や日本のメディアが行くわけでもないのに、先日の化学兵器使用事件など、私たちがシリアの反体制地域で起こったことを知ることができるのは、アブドラら反体制地域で危険を冒してでも情報を伝えようとする多くの市民ジャーナリストがいるからです。ジャーナリストがいなければ、何が起こっているかは知ることはできません」

さらに、シリアの市民ジャーナリストの信頼性について「私は彼らの情報が100%信用できるとは思っていませんが、アブドラはあるインタビューに答えて、出来事を誇張しないように、情報は必ず2人以上で確認するようにするなど、情報の信頼性を重視していると語っていました。政権の暴力を世界に知らせるための情報発信を始めた外国のメディアに使ってもらねばならないから、そのような姿勢が、アブドラが多くのメディアに現場リポートを提供する現在の評価の元になっている。さらに欧米のメディアの中には、シリアの市民ジャーナリストに対して研修やセミナーを行って、育てようという取り組みも行われています」と話した。
([2]に続く

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